A.環境・エネルギー
A1 オンサイト土壌浄化システムの開発   西松建設(株)   野本 岳志
 近年、土地の売却にともない、土壌ならびに地下水汚染の問題が顕在化しており、健康を保護する目的で制定された土壌汚染対策法が平成15年2月15日に施行される等、土壌・地下水汚染の環境問題に対する社会的な関心も高まっております。
 こうした中、新しい土壌洗浄技術の一例として、処理費が比較的安価であり、浄化後の土壌をリサイクル利用することができる等の特徴を有する土壌洗浄方法が注目されています。
 そこで本報告では、市街地における小規模工場跡地ならびにガソリンスタンド跡地における、汚染土壌の浄化のために開発されたオンサイト土壌浄化システムを紹介します。また、汚染土壌受入れから浄化した土壌までの品質管理方法についても紹介いたします。

A2 リサイクル人工緑化土壌の開発   清水建設(株)  大崎 雄作
 近年、都市再生事業等により各種施設の解体・新設工事のニーズが高まっている。開発者は、リニューアル工事等により発生する建設廃棄物のリサイクルやゼロエミッション化を目的として、コンクリート塊や木片等の廃棄物を緑化土壌へ転用するリサイクル人工緑化土壌の開発を実施した。
 本工法は、強アルカリ性のため緑化には不向きとされていたコンクリート塊や還元作用のある木片を緑化に適応した土壌とし、植栽を可能としたものである。本開発では実証試験により、本工法を用いた土壌による植物の生育状況の観察及び改良土壌の分析を実施し、その適応性に関して考察を加えた。
 植物の定期観測項目は、樹勢調査・成長量調査やストレス測定等とし、土壌の緑化に対する適応性を検証した。また、土壌の物性を検証するためにPH・有効水分量や土中養分量などの分析を実施した。
 本試験の結果から、コンクリート試験区及び木片試験区ともに、ある程度の植生の成長差は表れたものの、本工法の廃棄物を利用したリサイクル人工緑化土壌の植生への適応性が確認された。

A3 病院のごみ処理システム   大成建設(株)  川原 正人
 病院から排出される医療廃棄物の問題は、昨今注目されています。都市形成において、病院は不可欠であるためこの医療廃棄物をどの様に処理していくかは非常に重要な問題となります。ダイオキシン類等の環境問題により従来の処理方法である焼却が困難になってきているが、危険な医療廃棄物を全て排出するのではなく、院内で安全なごみにして排出する方法を基本と考え、院内処理の実施例をもとに病院のごみ処理について報告します。本システムは、医療廃棄物を米国で主流のマイクロ波滅菌処理するシステムであり、安全性の検証、自動化への試みを実施したものであり、今後ひとつの処理方法として提案します。

A4 改良型生物脱臭設備の適用事例   鹿島建設(株)  多田羅 昌浩
 畜産経営にかかわる環境汚染問題のうち、悪臭関連問題の発生件数が最も多く、効率的な臭気防除技術の確立が急務となっている。本研究開発は、畜産農家が導入できる低コストな脱臭装置の開発を行うことを目的に行った。
 本実証実験の結果、家畜排泄物の堆肥化過程で排出される臭気中で最も高濃度な成分であるアンモニア(平均濃度約70ppm、最高濃度200ppm)を、90%以上安定して除去することが可能であった。また、冬期の低温時も90%以上の除去性能を維持することが可能であった。脱臭担体内の水分に溶解したアンモニアは、硝化菌などにより速やかに硝酸イオンまで酸化され、脱臭担体での窒素の蓄積は見られなかったため、脱窒反応も同時に進行していると考えられる。

A5 街都市開発の計画段階における風環境検討について   大成建設(株)  金坂 利雄
 ビル建設における風環境検討は、建物周辺への影響や建物自身の性能などの視点から近年高まってきている。特に大規模開発計画においては、その周辺地域に与える影響は大きく、さらには開発によってもたらされる施設の利用者への影響が大きいことから、計画段階において十分な検討をする必要がある。現在、風環境の予測に関しては、一般にはコストが高く予測評価に時間もかかることから、計画がほぼ固まった時点で予測評価を行い、問題個所を植栽やフェンス等で対策するという方法(一般に二次的対策という)がとられている。本論では計画段階で風環境を検討することのメリットについて紹介する。

A6 建築の再生システムについて   西松建設(株)  原田 充
 ヨーロッパ各地において、すでにある建物を利用することを前提とした計画が進められている。
 これらは単に、資源の再利用という観点のみに行われているわけではないように思われる。
 そこに住む人々の建築に対する意識、また都市景観に対する意識が、自然に再生という方向へ導いているように思われる。
 今回、福岡県八女市という、歴史的町並みが数多く存在する場所で、1973年築RC造2階建の老朽化した老人福祉センターを、リファイン(補強・再生・増築)することにより、現状の機能を保ちながら、新たに地域住民全体が憩える場として利用できる建設を行った。
 一般にいう増改修工事とは異なる建築再生法を今回紹介したい。

A7 実施例から見た壁面緑化の計画ポイント   大成建設(株)  木村 孝
 アスファルト、コンクリートによる都市空間の気温上昇は、両者の持つ水を排除する特性から起きている。それはかつてあった土の機能である。
 吸水、保水、蒸発散、毛管作用等が見すごされたことにある。
 本報告は、この見すごされた機能を備えた、称してウェットコンクリートを活用する鹿島のアーバンウェットランドシステム、湿潤した空間創造を実行する商品開発を紹介する。

A8 光高反射・熱高放射塗料の開発   鹿島建設(株)  二階堂 稔
 ヒートアイランド現象の一因となっているコンクリート、アスファルト等による太陽光の吸収・蓄熱対策として光高反射・熱高放射塗料を開発した。本塗料は、コンクリート、鋼材、ステンレス等への塗装が可能であり、また、白色塗料だけでなく光高反射・熱高放射機能をもつカラー塗料も製造することができる。
 本報では、開発塗料の性能、工場屋根への適用効果についての実測及び解析結果、カラー塗料の性能把握実験結果、遮熱舗装道路への適用等を紹介する。

A9 干潟・アマモ場の自然再生技術〜英虞湾の実施例を中心として〜   大成建設(株)  上野 成三
 沿岸域の生態系にとって重要な干潟・アマモ場の再生技術の実施例として、英虞湾の例を中心に紹介する。英虞湾では長年の下水排水や真珠養殖事業の影響で海底がヘドロ化し、赤潮・貧酸素化が頻発する状態に悩まされている。そのため、英虞湾の自然浄化能力を復活させるために、地元漁業者と産官学の研究者が一体となって、干潟、アマモ場の再生事業を実施中である。英虞湾で開発
中の自然再生技術には、従来不要物として処理されてきた浚渫ヘドロやアコヤガイの貝殻を極力再利用することを主眼においており、干潟、アマモ場が順調に再生されつつある。

A10 大気浄化システムの開発   西松建設(株)  村上 薫
 道路トンネルや沿道沿い等の大気中に含まれる大気汚染物質を除去するため、
大気浄化システムを開発した。本システムはSPM を電気集塵機で、NOx を酸化機でNO2 に酸化、加湿器で湿度調整を行った後、新規開発した特殊脱硝材で吸着・分解するものである。沿道沿いでの実用規模を想定した小規模プラント実験により、除去率がSPM で90%以上、NOx で70%以上、NO2 で90%以上である基本性能を検証した。次に道路トンネル内の実用規模を想定したトンネル実験を行った結果、良好な能力を検証できたので報告する。

A11 新たな解析手法を用いた騒音予測システムによる市街地における道路交通騒音の予測と検証
    大成建設(株)  宇津木 淳一
 近年では、環境問題に対する関心の高まりにより、環境要因の一つである騒音は今まで以上に重要視される傾向にある。ただし市街地においては、道路・工場・建設工事など様々な騒音が多様な時間変動特性をもって存在すること、解析領域が広範囲であること、空間構成が複雑となり多重反射・多重回折などの伝搬計算が必要となることから、実用的で予測精度の高い騒音予測を行うことが難しく、これらの問題を解決する予測システムの構築が求められている。
 そこで新たに、多重反射・多重回折、音の透過・吸音、それらの複合効果を同時に短時間で予測できる解析手法を用いた騒音予測システムを開発し実用化した。
 今回、本システムの予測精度を検証するため、実際のフィールドにおける道路交通騒音の測定結果と、本システムによる予測結果との検証を行った結果、従来の予測手法では再現が難しかった建物による反射の影響などを、精度よく予測することができた。

A12 高温水広域ネットワークの費用対効果   鹿島建設(株)  金子 千秋
 本報告は、都市排熱を有効に活用することで、省エネや環境負荷物質排出削減に寄与することが期待される広域熱供給ネットワークの費用対効果を検討し、国土交通省の都市熱源ネットワーク事業費補助金拠出根拠の一要件を確認することを目的としている。
検討の結果、高温水広域ネットワークの効果は、a.省エネによる光熱水費削減効果とb. 運転時CO2 削減効果の2つが大きく、発電利用から高温水利用への転換効果が大きいことがわかった。また、費用対効果(B/C)は、当初計画のみの場合には、1.0 を超えないが、拡張計画により1.56 となり、1.0 を超えることがわかった。これから、国土交通省の都市熱源ネットワーク事業費補助金拠出根拠の一要件が満足できることを確認した。

B.情報・交通
B1 町田市商店街における物流車輌対策実証実験   鹿島建設(株)  平山 純
 各地の中心市街地の商店街において、車の渋滞や買い物客と車輌との混在による劣悪な買い物環境の改善が望まれている。特に最近では商品物流を担う物流車輌対策の必要性が広く認識されている。今回は東京郊外に位置する町田市の商店街で取り組まれている、買い物環境改善の一環として実施した物流車輌対策実証実験を、ご紹介するものである。実験対象地域は、交通規制のかかった買い物道路を中心とする個人事業者の多い商店街であり、デパートなど大型店舗の並ぶ幹線道路周辺とは異なる取り組みが必要となった。単なる車輌、物流対策の視点だけでなく、荷主である商店主の方々が積極的に参加できる“まちづくり”の視点を持った対策が必要となり、行政や物流業者を含め利害関係者の合意形成を図りながら、立体駐車場に併設された荷さばき駐車場を活用した実験を計画、実施した。

B2 物流の効率化に関するシミュレーション分析   東京海洋大学  小池 龍太
 東京丸の内地区は、我が国でも最も古い業務集積地区であるが、現在では業務だけではなく商業・文化の多様な機能を備えた質の高い都市空間を目指し、ビルの建替えなど再開発事業が進行中である。しかし、再開発に伴う物流車の増大、環境負荷の増大、物流車の路上荷捌きによる交通環境の悪化、高層ビルによる館内配送の所要時間増加など懸念されており、これら問題を回避する施策導入の必要性が強く公共セクター・民間セクターのいずれからも認識されてきた。解決策の一つとしては物流共同化に期待がかけられており、平成14 年2 月には丸の内地区において物流共同化導入可能性を検討する社会実験がおこなわれた。本論文では、実験の結果を用い物流共同化による物流交通削減量・労働時間の削減、環境改善効果を算出する。

B3 新たな交通実態調査による都市交通サービス検討への取組み   (財)計量計画研究所  柴谷 大輔
 パーソントリップ調査は都市交通計画を行う上で非常に大きな役割を果たしてきたが、調査費用の増大や調査対象者への負担の増加などの問題も存在し、抜本的見直しが必要となってきている。
 そのため、コストパフォーマンスの高い実態調査手法を確立するための取組みとして茨城県日立市において平成13年秋に実験的な実態調査が実施された。本稿は、これらの実験的な実態調査の中から、従来、紙の調査票にて対象者に記入してもらい把握していた交通行動を、高度通信機器のPHS端末を使用して把握する「PHSによるパーソントリップ調査」に関する結果を報告するものである。

B4 品川パーキングアクセス(A-1地区)の整備について   興和不動産(株)  小林 有作
 品川パーキングアクセス(地下車路)は、品川駅東口再開発地区整備計画で地区施設として都市計画決定され、A-1 地区、B-1 地区、B-3 地区の民地及び交通広場下(公共用地)を通る民間施設と公共施設が結合した施設であり、通過交通を認めるなど機能上からは公共性の高い施設である。施設の躯体整備は、それぞれ各地区開発者が行い、設備整備は各地区民間開発者が交通広場下(公共区間)も含めて共同で一体的に行なわれた。また施設の維持管理についても設備整備と同様に各地区民間開発者が交通広場下(公共区間)を含めて共同で一体的に行っている。本報では、品川パーキングアクセス(A-1 地区)の計画・設計及び維持管理について、その概要を報告する。

B5 都心再生に向けたパッケージアプローチ   札幌市  城戸 寛
 札幌都心交通計画は、『快適な歩行環境と円滑な自動車交通』を共に実現し、都心の魅力向上、そして、活性化を交通面から支えることを目的とし、適切な自動車需要による都心交通の円滑化に向けて、公共交通の利用促進に向けたサービス向上による自動車交通総量の適正化、また、道路利用者の手段や経路の変更、特に冬期間における積極的な交通需要管理等をパッケージでまとめている。また、限られた都心空間の中で、この二つの目的を同時にかつ適切に具体化するために、都心道路の機能分類を行い、メリハリのある交通分担を実現することで、道路網全体としての交通環境の向上を図り、人と車、自転車など空間を構成する各モードのあり方や具体的な活用の方向性を明らかにし、道路空間の再配分を行うことを提案している。

B6 名古屋都心地区におけるi モビリティセンターの整備事例   (株)日建設計  安藤 章
 名古屋国道事務所では、名古屋都心来街者の快適な歩行環境の実現を図るため、都心に位置する都市公園内に総合的な情報提供を行なう情報提供空間としてiモビリティセンターを開設した。
 iモビリティセンターでは、公共側のコスト負担の削減を図るため、官民連携のビジネスモデルを構築するとともに、中部地方整備局、中部運輸局、県・市行政機関、各交通事業者等多様な主体の連携施策として取り組まれている。
 また、2004 年に名古屋で開催されるITS 世界会議や2005 年の日本国際博覧会、中部国際空港に向け、国内外からの多くの来訪者の利便性向上にも資するよう今後機能拡張を目指している。

B7 横浜PDA実験における歩行者ナビの有効性と回遊効果について   横浜市  山浦 善宏
 PDA(携帯情報端末)を利用した歩行者携帯ナビゲーション実験を、平成13年度に引き続き横浜都心部で実施した。ナビゲーションの基本システムは、GPSによる位置情報を利用することにより、誘導経路をPDA画面上に表示し、曲がり角や観光スポットを音声や画像で案内するものである。利用者は用意したコースから好みの一つを選択しナビによる散策を行なう。今年度は追加機能として、ビルが林立しGPS電波が届きにくい箇所の位置情報の補完機器としてブルートゥースを使用した。また、回遊性に重点を置き、寄道情報の提供や周辺の飲食店情報も提供した。分析は、募集したモニターのアンケート結果やPDAに残るログデータをもとに行なった。利用者はハンズフリー的な観点から音声案内を、また、自己位置が確認できるGPS機能を高く評価していた。さらに、話題性や魅力の高いスポットへの寄道情報の提供は、移動距離や散策時間の延長につながり、回遊性に有効であるといえた。なお、利用者の来街頻度などの属性によって、要求されている情報に違いがあることもうかがえた。

B8 交通渋滞改善策のマイクロシミュレーションによる評価   東京海洋大学  前田 鉱太
 駅周辺部や都心商業業務地区などの地区レベルの交通改善策を検討する場合、ミクロの交通行動を分析評価することが不可欠であり、交通マイクロシミュレーション手法が有効である。本研究は、神奈川県秦野駅周辺の複数の交差点を含む面的地区をケーススタディ地区にとりあげ、信号現示の変更・右左折専用レーンの設置・一方通行などの交通施策を複合的に導入した場合の交通改善効果を、マイクロシミュレーション手法を用いて比較検証したものである。その結果、駅前道路の一方通行化・主要交差点における右左折専用レーンの設置が、混雑交差点の車両の遅れや車両の滞留、NOx 排出量を大幅に削減するのに有効であり、その経済効果を定量的に推定することが可能となった。

B9 近年の高知都市圏における路面電車の活用促進方策について   高知県  吉岡 重雄
 高知都市圏には来年開業100周年を迎える路面電車が走っている。平成9〜11年度に行ったパーソントリップ調査では、自動車交通と公共交通の共存が将来目標とされ、路面電車の活用方策についても提案されている。
 近年実施された活用促進事例について紹介すると、平成13年4月にはJR高知駅前広場に路面電車の乗り入れが開始され、JRと路面電車の乗り換え利便性は大幅に改善された。また14年10月には県道上で軌道緑化実験を開始し、街の景観向上などに貢献している。その他にも14年4月から超低床式車両が運行を開始し、14年秋には社会実験電車の運行を行うなど、様々な取り組みを行っている。

B10 千葉ニュータウンいには野地区におけるバリアフリー化事例について   都市基盤整備公団  中居 一洋
 平成12年春に街びらきを行った千葉ニュータウンいには野地区は、計画段階から街全体のバリアフリー化を目指して基盤整備を行った地区で、他地区等の先進事例等を参考にしながら、道路縦横断勾配への配慮、街全体への視覚障害者誘導用ブロックの設置、スムース横断歩道の採用、住宅地内のバリアフリー化などの取り組みを行っている。
 本稿は、いには野地区において実施したバリアフリーの事例の紹介や、いには野のバリフリー基準や考え方を「道路の移動円滑化整備ガイドライン」と比較して考察するとともに、実際の整備事例から、設計、施工段階における注意点や供用開始後に明らかになった配慮すべき点などの、バリアフリー整備にあたって生じやすい課題を明らかにするものである。

B11 札幌駅前通地下歩行空間計画について   札幌市  天野 周治
 札幌市では、人と環境を重視した都心づくりをモットーに都市再生に向けた取り組みを進めている。この中で、札幌駅前通地下歩行空間は札幌駅周辺地区と大通・すすきの地区を、四季を通じて誰もが安全で快適に移動できる歩行空間で結び、都心の魅力と活力を向上させる主要な事業の一つと位置づけ、計画を進めている。本文ではこの計画の概要について紹介する。

B12 空港アクセス機能整備による東京の魅力の向上について   東京都  藤野 崇之
 グローバリゼーションの進展に伴う昨今の国際的な都市間競争の中、我が国が21世紀の国際社会の中で確固とした地位を確保していくために、都市機能の向上は東京に取って重要な課題である。
 本論では東京における空港へのアクセスの課題を整理するとともに、課題の解決に向けた事業の展開についてレビューし、空港アクセスの改善を通しての東京の魅力向上について考察する。

C.まちづくり
C1 涼しい街づくりの計画手法   (株)竹中工務店  今野 英山
 近年わが国の大都市では、都心再開発による魅力的な都市空間が次々と誕生し、地価の安定ともあいまって都市に人が戻り始めている。
一方、都市のヒートアイランド化は都市化による典型的な環境問題であり、都心への回帰に少なからぬ影響を与えている。特に夏場の都市の快適性は著しく低下している。熱中症などの多発や、老人や病弱者にとっては命にかかわる場合も散見している。都心の商業地区における集客力にも影響を与えている。
 1) 都市の居住性を増し、国際的にも競争力のある街を作るためには、ヒートアイランド化の低減策と同時に熱環境の快適性を高める都市設計の方法論が不可欠である。そのため筆者らは熱的快適性を簡便に評価するシステムを開発し、その評価結果に基づいて建物配置や緑陰街路の設計など涼しい街をつくる計画手法を構築した。

C2 大阪竜華都市拠点地区における雨水貯留施設について   都市基盤整備公団  佐藤 正也
 近年、浸水被害の軽減、治水安全度の向上といった目的のために各地域において河川改修及び下水道整備が積極的に進められてきた。しかし、特に都市部においては、確保できる川幅にも限界がある。寝屋川流域は、面積約270km2の内、約77%が河川に自然排水されない内水域で占められ、その内水域に人口、資産が集中して高度に都市化が進んできたため、極めて水害を受けやすいという自然特性を有している。その対策として平成2 年4 月に策定された「寝屋川流域整備計画」では河川改修をはじめ、下水道の整備、地下調整池の建設など都市の中に人工的な保水・遊水機能を持たせる施策(流域施策)を進め、河川と下水道と流域が一体となった総合的な治水対策を推進している。当該地区においては、オンサイト貯留として公園貯留、歩道の透水性舗装、オフサイト貯留として地下空間を利用し雨水貯留施設を計画している。そこで、本論文では、当該地区において地下式の雨水貯留施設が必要になった経緯及び概論を紹介する。

C3 地域との対話型で進める広域都市圏の都市づくり   神奈川県  磯辺 隆行
 この取組みでは、行政が計画を立案し、それを住民に説明するという従来型の手法ではなく、計画策定の早い段階から、地域の方々と行政とが同じテーブルについて議論していくこととし、そのための場として、酒匂川流域の住民、団体・企業・NPOと県・市町からなる「酒匂川流域の交流ネットワーク会議」を平成13年8月に設立し、この流域圏における新たな都市づくりを目指して地域の将来都市像を議論、検討し、平成15年5月、その結果を酒匂川流域の都市づくり「提言」としてまとめた。
 本稿では、地域との対話型で進める広域都市圏の都市づくりとして、「提言」策定までに至る経過や「提言」の概要、新たなステップに入った現在の取り組み状況等を報告する。

C4 官民一体型事業による海老名駅周辺地区のまちづくり   海老名市  浜田 望
 これまで特に目立ったものがなかった海老名駅前が一つのショッピングセンターのオープンと共に、多くの来街者を集めている。このショッピングセンターは、民間の開発行為により建設されたものであるが、行政の都市基盤整備事業と同時期に施工され、既存の公園や新設されたペデストリアンデッキとの一体的な利用が可能となっている。
 「公共と民間の適正な役割分担のもと、相互協力のうえそれぞれの事業を推進していく」という基本的な考えに基づき動き出したまちづくりは、新たなまちの拠点の発見・活用により、賑わいを創出している。このまちづくりを「官民一体事業」という視点から紹介する。

C5 大規模なまちづくりにおけるCG(コンピューターグラフィックス)の活用について   (株)国際開発コンサルタンツ  芳賀 稔
 愛媛県今治市で地域振興整備公団が整備を進めている今治新都市(面積約170ha)では、基本設計等のデジタルデータを基に、造成計画、道路計画、施設整備イメージ等を3次元CG(コンピューターグラフィックス)で全面的に作成している。
CG作成の目的は、デジタル立体模型を活用して関係機関との協議や設計検証、美しい景観形成等に役立てることを目的としている。また、あわせて、地元等への事業計画の説明や宅地情報等のPR資料として役立てるものとしている。
作成しているCGは、第1 地区(面積約90ha)と第2地区(面積約80ha)について、どの視点からも取り出せる静止画、地区毎に外周部から360 度回転しながら俯瞰する動画、主要な幹線道路を走行する動画、地区内を自由に動き回れるVR(バーチャルリアリティ)画像等である。これらのCG画像を活用してホームページ形式等の説明資料も作成している。

C6 − 芦屋西部第一地区震災復興区整事業における官民協働型の事業推進−   都市基盤整備公団  北井 宏次
 本地区は、大震災(H7/1)による甚大なる被害(全半壊率約91%)から、震災復興土地区画整理事業により早期復興を図ることとしたが、事業当初は大多数の住民が区画整理事業反対の意向を示していた。このような厳しい事業環境の中、芦屋市・公団は、住民主体の計画案の作成等を目的とする「まち再興協議会」の設立にこぎつけ、同協議会との計51 回におよぶ話し合いや各種の勉強会及び説明会での説明等を経て、同協議会実施の会員投票等の賛同を得た「まち再興計画案」を受けるに至った。
 そして、同計画案をもとに作成した事業計画の認可(H10/5、施行者:公団)を得た後も、公団は市と連携し、権利者に対して、できる限りの分かり易い説明や情報提供をタイムリーに行う等、合意形成に努めながら、換地設計(仮換地)決定、建物等移転補償交渉及び工事施工を行った。また、主要幹線道路や公園等の整備計画についても、上記協議会の提案を尊重して整備を進める等、住民の意向反映に努めながら事業を進め、本年5月に換地処分公告をなした。結果として、同処分に係る審査請求等は1件も提起されなかったが、これは、前述のとおりの「官民協働型の事業推進」の取り組みが深く関わっていると思われ、今後の既成市街地型事業における一つのモデルケースになりうるものと思慮する。

C7 環境と共生する魅力ある都市居住空間の創出   (株)竹中工務店  春日 優子
 地球温暖化やヒートアイランド等、今日の都市環境は深刻な状況である一方、都心回帰による都市居住者増加は続く傾向にある。都市部での環境配慮対策は様々な検討が行われているが、環境と共生する魅力ある都市居住空間の再生や創出も強く望まれている。本編では2 つの事例を通じて、住まい手にとって魅力ある都市居住空間の創出について述べた。敷地条件、周辺の自然環境ポテンシャル、自然エネルギーの有効利用等を活かした快適空間創出を目指した事例では、「明るく風通しが良く、冬暖かい」環境共生住宅の設計手順について述べた。住まい手のライフスタイルに合わせた間取り・内装が実現できる分譲住宅事例では、住まい手ニーズや属性、実施内容について紹介し、多様化する個性の時代(都心部)における個別設計対応性の重要性について述べた。

C8 地元との合意形成によるインフラ整備事例   大成建設(株)  金子 文夫
 我々の生活に欠くことのできない社会基盤整備事業は、大都市では人口の密集による空地の不足等の問題により、工事ヤードの確保が難しくなっている。一方、環境の時代といわれている今日、自然環境に対する関心の高まりから、環境保全に係わる様々な取り組みがなされるようになった。
 このような社会環境の中、東京都台東区で下水道敷設工事が計画された。近隣に大規模空地がなく、公共用地の活用が望ましいため利害関係の多い小学校校庭にシールド発進基地を設置することになった。返還時には、地元の創意が得られる施設を設けることが協議の上約束された。施設として、地元と一体となって自然環境の重要性を認識し、かつ育むための実践の場としての「ビオトープ計画方針」を提案したところ、地元や学校関係者の合意形成が得られた。都市部におけるビオトープであり、生物が飛来するか懸念されたが、完成から約1 年が経過し各種のトンボや蝶、鳥類が観察されており、地域の自然が再生しつつあることが確認できた。

C9 国際コンセプトコンペにおける都市再生の新たな手法について   都市基盤整備公団  島本 健太
 関西の「都心に残された最後の一等地」である大阪駅北地区(梅田貨物駅用地等約24ha)において、国際コンセプトコンペを実施。52 の国と地域から966 件もの作品応募があり、一般市民からデザイナー、建築家など幅広い分野から多くの提案を得た。
 本研究は、国際コンペの経過と結果をふまえ、国際コンペをビルトインしたまちづくりのプログラムモデルを構築することで、新たなまちづくりの手法を提言するものである。
 大阪駅北地区国際コンセプトコンペのプログラムは、都市プロモーション戦略手法として、さらに公民協働による需要創出型の民間誘導を行なう新しいまちづくりの手法として、当プロジェクトのみならず、都市再生緊急整備地域を含めた他プロジェクトにも十分利用できる可能性がある。都市公団が今後、新独法として、当プログラムを更に発展・展開させることで、民間の潜在力を引き出し、更なる事業機会を創出するための、都市再生に向けた新たなソフトインフラ整備の戦略的なツールとなることを確信している。

C10 東京駅周辺における公共的地下空間の活用による防災対策について   三菱地所(株)  水口雅晴
 平成14年6月に「都市再生特別措置法」が施行され、東京都心では「都市再生」
のための再開発が官民の積極的な投資により進められている。大手町・丸の内・有楽町地区に広がる東京駅周辺地区においても、民間ビル群の建替え等の「街の更新」が平成20年(2008)頃の概成を目途に進められている。
 大規模地震災害が発生した場合、鉄道交通の途絶により通勤者、通学者及び買い物客等に多くの帰宅困難者が生じ深刻な事態が発生すると考えられる。
 本年3月にドイツのミュンヘン再保険会社(世界最大の再保険会社)が発表した
世界主要都市の自然災害危険度ランキングによると、「東京〜横浜」は突出してリスクの高い地域とされ、世界は厳し視線を向けている。
 当地区の持つ地域防災力について検証するため、本稿では帰宅困難者数を推計するとともに、当地区の縦横に整備された鉄道地下コンコース等の公共的地下空間に着目し、大震災時の有効活用について検討を行う。

C11 地下街の整備効果の計測に関する検討と分析   都市地下空間活用研究会  八木 輝幸
 地下街は、快適な歩行者空間の提供と、回遊性の向上、地下駐車場整備による交通混雑の緩和などに貢献するほか、賑わいの提供、商業の活性化、地区イメージの向上など多くの波及効果を挙げている。今後、地下街の更なる積極的な活用を図るためには、地下街の開設が都市に及ぼす効果を具体的に把握し、都市
施設としての有効性を客観的に示す必要がある。
 そこで、地下街の整備効果を把握することを目的に、本分科会では、平成13年4月に開業した広島紙屋町地下街「シャレオ」を題材に、地下街オープン前後の周辺歩行者通行量調査を行っている。本年度も継続的に調査を行うが、分析するための視点は単一では不十分である。本論文は、追加調査の実施や関係機関への問い合わせ並びにデータ収集を行い、「地下街の整備効果」の多角的な検討を行うことを目的とする。

C.技術開発
C12 住民参加型のビオトープ計画システムの開発とその適用   清水建設(株)  林 豊
 近年、土木、建築、都市整備などにおいてはビオトープの整備は不可欠となりつつあり、公共事業では行政と住民、NPOなどとのパートナーシップ、合意形成などが重要になってきた。
 筆者らは、ビオトープの整備の際に、行政と住民が協働で計画を練り、住民参加・合意形成に基づいたビオトープの利用・維持管理を行い、地域自然環境の向上やまちづくりへと発展させていくことを目的に、住民参加型ビオトープ計画システムを開発した。
 本稿では用水路改修事業に伴うビオトープ整備計画において、本システムの適用によって計画に対する参加住民の理解度や納得度が高まり、維持管理活動への参加意識が向上した例を報告する。

C13 Web3Dを活用した合意形成支援システムの開発   (株)大林組  渡辺 眞知子
 本研究は、経済産業省からの委託研究である「次世代バーチャルリアリティ等推進事業」の一環として行ったものである。同プロジェクトでは、公共事業等にける計画策定及び事業主体と一般市民との合意形成を支援するために、Web3Dによる空間提示手法の開発と、IT 技術を駆使したWeb サーバーシステムの開発を行った。このシステムでは、インターネットによる情報発信、アンケート情報の収集そして住民の意見を考慮した対策案を3次元空間や文字情報としてを効果的に提示するとともに総合的な評価ができる仕組みになっている。今後の街づくりや各地域の再開発・環境問題等の検討作業に広く活用が可能なツールとしてプロトタイプの開発を行った。

C14 制震システムを基軸としたリアルタイム防災システムの提案   鹿島建設(株)  高橋 元一
 IT化を背景に建物機能が高度化する中、建物や建築設備の機能保全、早期回復、さらには近年関心の高まっている危機管理の面から、地震により生起する異常に対して迅速に対処するため、新たな能力を付加した制震システムを基軸とするリアルタイム防災システムを提案した。本システムは、地震最中、直後を中心として、振動センサによる計測結果や諸設備の稼動状況等を収集し、これらをもとに制御コンピュータが建物の防災を総合的に判断し、これまでに無い高度なリアルタイム防災の実現を目指す。特に、設備の運転監視機能を持たせることにより、地震時のみならず常時の機能をも併せ持つ建物のシステムとして高い付加価値を生む。竣工後13年を経過したAVS(可変剛性)制震システムを有する実建物に、本システムのコンセプトの一部を試適用した結果を併記した。

C15 既存ペンシルビルの連結による街並み再生   大成建設(株)  藤井 俊二
 東京などの都市中心部では間口の狭いペンシルビルが林立している地域がある。このような地域の問題として、(1)デザインがまちまちで街並み景観がよくない、(2)各建物に階段、バルコニー、エレベーターを設けるため空間効率が悪い、(3)火災時に下方にしか避難できないので防災上問題がある、(4)高さに対して幅が狭いため風や地震によって揺れやすい、(5)設備機器が個々のビルごとに計画されているため効率が悪い、などの課題をかかえている。そこで、隣接するペンシルビルどうしを連結することにより、これらの問題を解決し、建物の性能の向上と整った街並み創りをねらった。この手法はコンバージョンとの組み合わせも有効である。本研究は日本建築学会の特別研究委員会の活動として2002、3年度に実施しており、2002年度は国土交通省の建設技術研究開発助成制度の助成を受けて実施した。

C16 道路交差部の渋滞を解消する短期間立体交差化工法『QS工法』   東急建設(株)  吉川 和夫
 交通量の多い都市部交差点の交通渋滞は、都市機能の低下、周辺環境の悪化、市民生活の不便、物流の遅延、緊急車両通行の妨げを招き、その人的、経済的な損失は甚大である。一方、従来の工法では、渋滞が慢性化している交差点を立体化するのに1〜2年の工事期間が必要としていた。さらに、交通渋滞の緩和を目的とした事業そのものが更に深刻な交通渋滞を生むこともあり、事業を断念するケースも少なくなかった。
 このような背景から、都市内の立体交差整備事業には、短期間に完了する急速施工であること、工事中の交通規制が最小限であること、工事用地が最小限であること、周辺環境への影響が小さいことなどの厳しい条件を満足する新工法が必要となった。
 そこで、鋼橋の専業メーカーである宮地鐵工所と、都市土木の実績が多く鉄道の立体化工事を得意とする東急建設では、各々がこれまで培った鋼製高架橋を短期に施工する技術ならびに狭いスペースで下部工・基礎工を短期に施工する技術を結集し、立体交差整備事業が要求する" 狭いスペースの中で極めて短期間に完成させる" QS工法のについて紹介する。

C17 大深度換気用立坑を泥水式斜坑推進工法で施工   清水建設(株)  久原 高志
 ここに報告する推進工事は道路下87mの深さに築造されている既設構造物(内径10.8m、延長2,000mのシールドトンネルによる雨水地下調節池)の頂点に接続する内径2.0mの換気用立坑を、道路に隣接する公園敷地内から伏せ角度75.6 度の直線で繋げたものである。
 この工法は、従来工法である立坑と横坑の組み合わせによる換気孔接続方法に比べ工費、工期において有利な方法であるが、他に例を見ない特殊な斜坑推進工法であるため、施工計画においては掘進機の大深度・高水圧対策、地上設備の推力、浮き上がり対策、管内部の安全作業足場対策(エレベータ設置)などを検討し実施した。
 工事は短期間で推進工事を完了し、地下87mの地下構造物へ高い精度で到達した。

C18 大断面分割シールド工法によるアンダーパスの施工   大成建設(株)  金子 研一
 地球温暖化やヒートアイランド等、今日の都市環境は深刻な状況である一方、都心回帰による都市居住者増加は続く傾向にある。都市部での環境配慮対策は様々な検討が行われているが、環境と共生する魅力ある都市居住空間の再生や創出も強く望まれている。本編では2 つの事例を通じて、住まい手にとって魅力ある都市居住空間の創出について述べた。敷地条件、周辺の自然環境ポテンシャル、自然エネルギーの有効利用等を活かした快適空間創出を目指した事例では、「明るく風通しが良く、冬暖かい」環境共生住宅の設計手順について述べた。住まい手のライフスタイルに合わせた間取り・内装が実現できる分譲住宅事例では、住まい手ニーズや属性、実施内容について紹介し、多様化する個性の時代(都心部)における個別設計対応性の重要性について述べた。

C19 緩衝材を用いた炭素繊維シート接着工法の開発   清水建設(株)  前田 敏也
 橋梁やトンネルをはじめとする各種コンクリート構造物の補修・補強工法として、高強度で耐久性や施工性に優れた炭素繊維シート接着工法が用いられている。しかし、接着工法における課題としてシートのはく離が指摘されている。このため、コンクリートとシートとの間に変形能力に優れた緩衝材と称する材料を層状に設置する工法を開発し、種々の確認試験を行った。その結果、緩衝材によってシートの付着性状が改善されてはく離抵抗性が向上し、補強効果が高まることを確認した。また、少ないシート量でも従来工法と同等の補強効果が得られ、コストダウンが可能であることも確認した。ここでは、実構造物の補強を想定して行った梁の曲げ試験、床版の疲労試験、管の載荷試験およびシートの押抜き試験の結果について述べる。