A.環境・エネルギー
A1 建設工事における騒音伝搬予測システム   鹿島建設(株)  今関 修
 ISO14001 の普及や主に公共工事における総合評価入札方式における騒音低減技術提案の増加を見ると、世の中の環境問題への関心は年々高まっている。平成18 年度版環境白書によると、騒音による苦情の割合は、工場・事業場に係るものが35%、建設作業に係るものが29%と建設関連の騒音が高い割合を示す。
 このような状況において、建設工事の騒音が周辺環境へどの程度影響するかを事前に予測・評価して、その低減対策を講じることは環境保全と工事の円滑施工のために重要である。工場を建設する場合は、工場内の設備機器が稼働した時に発生する騒音が、周辺の民家などに影響を及ぼさないような性能設計が要求される。騒音は、心理的生理的影響を及ぼす要因にもなるため、建設業の環境対策への取り組みは責務と考え、騒音伝搬予測を可能とするシステムを開発した。システムの概要と併せて解析精度の高精度化、省力化、結果の評価における主な工夫点について報告する。

A2 建設用鋼材の資源循環   住友金属工業(株)  千田 光
 鋼材は、建築の中で構造形式や用途にかかわらず幅広く使われるとともに、他の産業界でも大量に使われる材料である。使用済みの製品はスクラップとして回収されリサイクル鋼材となり、建設用の主力鋼材として使われている。高炉−転炉法と電炉法は製品の種類や要求性能によって使い分けられ、鉄鋼業界全体として資源循環が推進されている。
 今後は、鉄スクラップが国際商品として流通していく中で、アジア圏を含めた国際静脈物流システムの構築が求められる。
 また、今後のリサイクル鋼材の品質を確保する上では、CuやSn等の不純物の濃縮を避けるために、製品や建物の解体時に異物混入を防ぐ工夫が必要である。

A3 非共振型低コスト電波吸収フィルムの開発   (株)竹中工務店  原川 健一
 透過する電磁波の50%を熱に変換する電波吸収フィルムを開発した。本電波吸収フィルムは単層膜で周波数依存性が無く、通常使用する電磁波ならば、どの帯域にも対応できるため、汎用的に使用できる。本電波吸収フィルムは、印刷技術を用いてアルミニウム蒸着膜をパターン化して作ることができたため、他の方式に比べて低コスト化できる。さらに、高い透明度も有しているため、色々な場所に適用できる。シミュレーションにより6面が電磁シールドされた室内に本フィルムを適用した場合には、室内電界強度を1/20に、エネルギー密度を1/400に低減できることが判った。以上のことより、本フィルムは、シールドされたオフィスや金属で覆われた航空機等の交通機関に適用し、電磁環境を改善できることが判った。

A4 ストックアンドフローとなる建築モデルの可能性〜PCリブロックシステム   RePC研究会  高草 大次郎
 主に財務・会計の分野で用いられてきた言葉、ストックとフロー。建築では、ストックとは不動産に他ならず、フローとは、経済的で新しいものを求めて変化する現状に対応する概念である。この二律背反の欲求に対して、どのように応えればよいのか。我々の答えは、「ストックでありつつフローである建築」である。言い換えれば、長く、繰り返し使える建築であり、不動産且つ流動産なる建築と言えるかもしれない。環境活動は既に世界規模で行われているが、その中で建設業が環境に与えるインパクトは大きいながらも遅れている。ここで、環境性能に優れたストックを提案することが出来れば、それは同時に経済・社会的にも効果を与えることに繋がり、フローとしても優れた性能を発揮することができるはずである。これが都市を活性化させる新たな建築モデルである。

A5 分散型エネルギーシステムを面的活用するサステナブルタウン研究   日本環境技研(株)  青笹 健
 本研究は、街区レベルで分散型エネルギーシステムを面的に活用し、高効率かつ災害時も一定の機能を確保出来るエネルギーシステムの構築について検討し、個々の建築レベルではなしえない省エネルギーや環境負荷低減の達成と、災害時にも逃げずにすみ、業務が継続できるまちとしてサステナブルタウンの実現を目指すものである。本報では、目指すべきエネルギーシステム像、分散型エネルギーシステムの基本的な構成イメージといった基本概念を構築し、東京都心区を対象とした分散型エネルギーシステムの面的な導入による期待効果と新規面開発地域における導入システムイメージについて報告した。今後、都心区でのケーススタディを進め、分散型エネルギーシステムを活用したサステナブルタウンの評価・計画手法、普及方策について検討を進める予定である

A6 高効率・超小型化技術による都心バイオマス利活用システム化構想   三菱地所(株)  井上 成
 大手町・丸の内・有楽町地域では、商業施設内飲食テナントから日量30t超の食品残渣が排出されている。現在、三菱地所グループで管理運営するビルの内、丸の内ビルディング等比較的新しいビルでは、厨芥・雑芥の15〜20%相当分を域外に搬送の上、飼・肥料化しているが、分別できていない異物混入の廃棄物は清掃工場で焼却処分されている。本研究では、ビル設備として超小型化された高効率バイオマス資源化技術の導入、既存の都市エネルギーインフラである地域冷暖房プラントとの連携、搬出搬送方法の工夫による都市アメニティへの配慮等を視野に入れた、都心業務地域で実現可能なバイオマス利活用システム化を検討する。得られた知見から、都心における地産地消型の先進的なリサイクルシステムモデルを構築し、その普及推進に資することを目的としている。

A7 下水熱を活用した資源循環型まちづくり   日本環境技研(株)  桑原 淳
 下水熱は代表的な都市型の未利用エネルギーの一つであり、膨大な賦存量をもっている。また、地域冷暖房などと組み合わせることにより、省エネルギーの推進や温室効果ガスの削減、さらにはヒートアイランドの抑制といった効果が期待される。しかし、現在、下水熱を熱源として有効に利用している例は非常に少なく、またその事例も下水処理場及び下水ポンプ場に限られるなど、下水幹線から未処理水(生下水)を直接取り込んで活用する事例はない。本調査研究は、都市域に広く張りめぐらされている下水道幹線からの未処理水を利用した下水熱利用ヒートポンプ熱供給システムの検討および環境面の効果(省エネルギー・省CO2)について検討した。特に下水温度に着目し、首都圏と寒冷地における導入効果、冷房時と暖房時の導入効果について比較評価した。さらに、下水熱利用を広く事業展開する方策として、再生水製造・供給との複合利用について検討した。

A8 メタン発酵と高圧CO2溶解水を利用した貝類廃棄物処理システムの研究   鹿島建設(株)  北島 洋二
冷却水取水路等で発生する貝類廃棄物は再資源化が求められている。我々は貝類廃棄物のリサイクルのために,貝類廃棄物に含まれる有機物である貝肉等はメタン発酵にて分解し,また,無機物である貝殻は高圧CO2溶存水にて重炭酸化分解するという処理方法を組み合わせるシステムの研究を行った。 その結果,分離貝殻試料は,100分程度の反応時間で高圧CO2溶解水に可溶化することがわかり,圧力・温度といった反応条件による影響も物理的に妥当なものであると推察された。また,高圧CO2に暴露された貝肉等の有機物のメタン発酵においても,通常の条件同様にエネルギー回収を行えることが確認できた。

A9 通勤交通を対象としたモビリティマネジメントの有効性に関する実証的検証   (株)日建設計  安藤 章
 京都議定書の発効以来、温暖化ガス排出削減の重要性は一層高まっている。特に交通部門の排出量は、わが国の総排出量の約2割に達することから、現在の自動車中心の都市交通体系からの脱却は必要不可欠である。
このようななか、公共交通や自転車・徒歩等のエコモビリティの利用促進を目指し、移動者個々人の移動に関する意識改革を訴えるモビリティマネジメントが注目されている。本調査研究は、国土交通省中部運輸局からの受託業務として実施し、通勤交通をケーススタディとし、モビリティマネジメントの有効性を実証的に検証したものである。具体的には、愛知県豊田市、静岡県磐田市、三重県北勢地域の企業をモデルケースとし、インターネットによるトラベルフィードバック(TFP)の有効性と課題を検証した。

A10 CO2ポイント制度を活用した既存共同住宅団地再生の可能性   大成建設(株)  鵜飼 修
 我が国において高度経済成長期の昭和40年代から50年代前半にかけて供給されたおよそ306万戸の共同住宅は、近年、建物の老朽化や、安全性、高齢化の進行による地域活力の低下など様々な問題を生じている。このような共同住宅や都市基盤を放置することは、安全・安心で美しい国土の形成の視点からみても大きな問題であり、これらの共同住宅については、厳しい財政が予想される中でも適切に再整備を行っていくことが必要である。本稿ではこのような課題を踏まえ、共同住宅団地を対象とし、総合的な視点からの団地再整理戦略の提示、「CO2ポイント制度」の提案をふまえ、実在する団地を対象にした団地再生のケーススタディを行い、CO2ポイント制度を活用した既存共同住宅団地再生の可能性について検証を行うものである。

B.情報・交通
B1 鉄道GISの構築とアーバンインフラへの活用   ジェイアール東日本コンサルタンツ(株) IT事業本部 部長  小林 三昭
JR東日本・JR九州等は、紙図面を撲滅し「デジタルに始まり、デジタルで終わる」データのシームレスな流れを築くうえで、線路平面図を電子化してGIS上に展開した鉄道空間情報管理システム「鉄道GIS 」を構築している。鉄道GISでは、デジタル化された市街地図・線路平面図にキロ程・線路中心・駅・鉄道設備等を属性情報として付与し、図面管理と保守・資産台帳データベースの融合を図り情報共有を実現するためのビジネスプロセス全体をデータ化し、これにより企業全体の生産性の向上を図ることとしている。
また、これによりGPSなどの位置情報と連携した鉄道と市街地や道路と融合した各種サービスが可能となり、アーバンインフラとして利用環境が整った。

B2 乗用車専用立体交差による渋滞解消について   (社)日本鉄鋼連盟  脇屋 泰士
交通渋滞の多くは「ボトルネック交差点」で発生しており、これに対する有力な方策は立体交差の導入である。特に小型車のみが通行できる「乗用車専用立体交差」を導入すれば、設計車両寸法や設計荷重が従来の「普通道路規格」に比べて大幅に小さくできるため、構造的にコンパクトに整備することができる。そのため、これまで立体交差化が困難であった交差点についても、乗用車専用立体を用いれば立体交差事業が展開できる可能性が拡大し、ボトルネック交差点に対して抜本的な渋滞対策を行うことが可能になるものと考えられる。そこで本論文においては、乗用車専用立体の有効性を検証するため、渋滞する交差点に対して乗用車専用立体と普通立体を導入した場合の検討を行い、建設事業費や渋滞解消効果に関する比較を行った。

B3 ITを併用した高輝度LED路面表示システムの開発とその展開   鹿島建設(株)  吉田 正
 道路や駅前広場等の交通広場においては、時間・曜日によって交通需要が大きく変動する。交通需要に応じて道路車線や進行方向などの路面表示を弾力的に変更することができれば、限られた道路空間の有効活用、トータルコストの低減、さらには利便性・安全性の向上に寄与するものと考えられる。
そこで筆者らは、路面に埋設した道路鋲を発光させIT技術と連動して弾力的に路面表示を変更することが可能な高輝度LED路面表示システム「レーンライティングシステム(LLS:Lane-Lighting-System)」を開発してきた。本稿では、LLSの概要とその都市インフラへの活用プランを紹介する。

B4 鉄道高架化事業における交通円滑化効果の検証について   大阪市  西尾 富雄
 大阪市では、踏切で発生する深刻な交通渋滞や交通事故により、市民生活において大きな損失をもたらしている。そこでこの踏切を除却するべく鉄道を高架化するJR阪和線連続立体交差事業を進めている。本事業は新しい高架が完成し、平成18年5月21日に列車を高架に切替え、踏切を廃止した。高架切替え直後に、幹線道路での交通実態調査を行った結果、踏切があった従前に比べ、自動車交通量の増加や走行所要時間の短縮などの交通の円滑化が図れたことが確認できた。本論文は、鉄道高架化事業の効果の速報として事例発表する。

B5 交通社会実験における複合的TDM施策効果の評価手法に関する研究   東京海洋大学  吉宮 卓志
 神奈川県道54号線愛川線は相模原市の上溝地区と愛川町を結ぶ全長約4kmの主要地方道である。沿道周辺は商業と住宅が混在しているが、相模原市と隣接する愛川町共に大規模な工業団地があること、相模川を跨ぐ高田橋がボトルネックになっていることなどにより、通勤及び帰宅時間帯の交通渋滞が常態化している。
本研究では、平成18年1月に神奈川県相模原市西部を走る神奈川県道54号(愛川線)で行われた交通社会実験「愛川線スイスイ作戦」の施策効果を、交通マイクロシミュレーションモデルを用いて事前に評価することを目的とした。また、これにより交通マイクロシミュレーションモデルの施策効果に向けた有効性について検証することを2つ目の目的としている。

B6 GPS端末を活用した除排雪作業の高度化について   青森市  長井 道隆
 青森市は、人口約32万人を擁し、県庁所在地として国内はもとより世界的にも指折りの多雪都市で特別豪雪地帯に指定されております。除排雪作業にあたっては、ショベルカーなどの作業車両500台以上を駆使し、1,300キロメートルを超える市道の除排雪を行っています。しかしながら、作業の進捗状況の確認や市民からの要望・苦情処理については、パトロールが8班で直接現地を確認しながら行っており、タイムリーな状況把握は困難な状況でありました。
 このようなことから、IT技術(GPS)を活用し、除排雪状況の把握に努めるとともに、市民に対してもインターネットを利用して、除排雪情報の提供を行えるシステムを構築し、効率的で効果的な雪対策を行うこととしました。

B7 中央区銀座地区荷捌き駐車施設社会実験 〜共同荷捌き施設の利用ルールの確立に向けて〜
   東京都中央区  早川 秀樹
 銀座地区においては、平成15年12月から施行している銀座ルールを基に、当地区の共同荷捌き駐車施設の設置に取り組んでいます。
 平成18年6月の道路交通法の改正を前に、銀座地区で抱えている荷捌き駐車問題について、その改善策を地域の地権者や事業者とともに社会実験を行い、その荷捌き特性を検証しました。
 この実験結果から、路上や路外の荷捌き施設の利用形態が明らかとなり、当地区における荷捌き特性の有効なデータを得ることができました。
 今回、この社会実験結果の概要を報告すると共に、荷捌き駐車施設の利用ルールを策定するための今後の方向性を紹介します。

B8 鉄道駅新設に対する期待の変化と利用動向との関連分析   ものつくり大学  田尻 要
 本研究では、開業前後における新駅への期待の変化・利用意向の把握を目的に、問屋町内の事業所とそこに勤める従業員に対して新駅開業前および新駅開業後にアンケート調査を行い、回答者の戦略的バイアスに関する影響について新駅利用意向に関する回答者の意識に着目して考察を行った。その結果、開業前における新駅への期待が、開業後においては、より現実的なイメージとなって現れ実際の意識と近い意向を表し、さらに、開業前の新駅開業の意識が曖昧だったことが把握された。以上のことから、新駅利用意向の把握を目的としたアンケート調査では、利用意向のイメージが希薄の段階での「利用意向有り」回答者など、戦略的バイアスが包含されている可能性があるため、そのバイアスを取り除く検討も必要である。また、「新駅開業の明確化」のような環境に近づく情報や条件を、事前に提示することで、回答者の新駅設置に関する意識の信頼性が向上すると考えられる。

B9 多摩地域における都市計画道路の整備方針(第三次事業化計画)の策定について   東京都  腰塚 信一郎
 東京都では、多摩地域における都市計画道路を計画的、効率的に整備するため、概ね10年間で優先的に整備すべき路線を定めた事業化計画を過去、平成元年、平成8年と二度にわたり策定し、事業の推進に努めてきた。 本報告は、第二次事業化計画(平成8年度〜平成17年度)の期間満了を受け、平成18年4月に策定した第三次事業化計画を柱とする「多摩地域における都市計画道路の整備方針」の概要についてまとめたものである。

B10 都市交通からみた都市特性−全国都市交通特性調査の実施と調査結果の分析−   国土交通省  松浦 利之
 社会情勢の変化に対応した都市交通計画・施策のあり方を検討する上で、異なる特性を持つ都市とその交通特性との関連を把握し、都市特性に応じた望ましい施策を準備することが重要である。そこで、全国の平日・休日の都市交通特性を、都市特性との関連から把握し、都市交通計画・施策の基礎資料とするために、平成17年度に全国都市特性調査を実施した。本稿では、全国都市特性調査の概要、現時点での分析結果を紹介する。

C.まちづくり(ハード)
C1 低コスト環境共生インフラ−超長距離・大深度シールド技術   鹿島建設(株)  隈部 毅彦
 中心市街地の活性化を図るためにアーバンインフラを整備・構築する際、地上部は過密化しているため地下空間の利用は益々拡大している。さらに大深度地下特別措置法により地下40mを超える深さに種々事業が計画されている。また、コスト縮減や用地取得の困難さから、地上からの作業及び地上部での作業を極力減らすことが要請されている。鹿島建設は、世界最長となる9kmの超長距離シールドトンネルを、地上からの作業箇所は1箇所のみで掘進を無事に完了。引き続き東京湾海面下約60m地点(作用圧約0.6Mpa)で、地上からの作業が一切なく機械式により別のシールドトンネルと接合させ、合計18kmのトンネルを構築した。従来の施工期間の約半分で完成した。低コストで環境共生インフラを実現する『超長距離・大深度・高速シールドトンネル技術』を報告する。

C2 都市再生における交通渋滞箇所の合理的アンダーパス構築技術
   大成建設(株)  大久保 英也
 都市部の交通渋滞を解消する一手段として開発した大断面分割シールド工法(ハーモニカ工法)は、矩形の大断面トンネルを均等に分割した小断面のトンネルを積み重ねるように掘削し、最後に全トンネルを接合一体化し、内部構築を行う工法で、交差点や鉄道下などのアンダーパス構造物を非開削で築造する技術です。
小断面で掘削するため低土被りでの施工が可能で、シールド掘削機を繰り返し使用するため経済的効果が高く、工事用地も小規模で施工できます。小断面トンネルの掘削が終了するとトンネルの土工事は終了する,などの特長を持っています。
東京都内で地下通路の施工実績を紹介します。

C3 線路上空からの急速杭打ち工法「ラピッツ−O工法」の開発   (株)大林組  辻 奈津子
 最近、用地確保が困難な都心部では、駅の機能強化や利便性の高い歩行者動線の整備といったまちづくりに伴い、線路や駅の上空に人工地盤を構築するニーズが高まっている。
本工法は、鉄道の営業を妨げることなく駅や線路の直上に、人工地盤や高架橋を構築できる新工法である。線路上空に設置した移動可能な作業ステージ(ポータブルステージ)上から、小型軽量の掘削機を用いて昼夜連続で杭工事を行うものである。トラス構造の採用で軽量化したステージを、本設構台(先行して構築された人工地盤)に支持させることにより、張出し部のステージを支える仮柱も不要にした。つまり、線路階の占有を最小に押さえ、ホームや線路などの旅客利用空間と作業空間の分離を行うことで、駅利用者の快適性や安全性を確保することが可能になった工法である。
 2005年秋に、開発機械の実機を用いて施工実証実験を実施し、工法の安全性と有効性の確認を行ったので併せて報告する。

C4 先受けを本体利用した新超大断面道路トンネル分岐合流部築造技術の開発   清水建設(株)  上原 芳文
 都市域の過密化が進み、交通インフラは地下大深度における整備が求められている。シールド技術は、道路トンネルに対応する長距離・大深度・大断面の施工を可能とする技術開発が進んでいるが、それに伴い、道路トンネルと交差する地上幹線道路との接続、すなわち、地上との分岐合流を大深度地下に非開削で施工する技術の需要が高まっている。そこで、都市域の大深度未固結地盤を非開削で、断面が500uを超える道路トンネル複数車線同士の分岐合流部構築を目指して開発を進めた。
 既開発の非開削分岐合流部築造工法(SR−J工法)の凍土複合リングを高剛性リング構造体に進化させ、同時に本設覆工とすることにより、さらに、工期短縮かつ周辺環境への影響を低減した新しい超大断面道路トンネル分岐合流部築造工法(SR−JP工法)を開発した。

C5 資源循環型住宅の構造架構システムの開発   竹中工務店  木村 秀樹
 集合住宅の構造躯体は,居住性能を満足する必要があることから,部材剛性の大きいRC構造が採用されることが多いが,RC構造の分離解体は容易ではなく,構成部材の再利用は困難である。ここでは,鉄骨架構とほぼ同等に部材のリサイクルやリユースが可能な構造躯体として提案した「コンクリート充填H形鋼架構(以下CFH架構と称す)」について紹介する。これはH形鋼の凹部分にコンクリートを装着したCFH部材を柱、梁として用い、組立や解体が容易なようにボルトやPC鋼棒などで柱と梁を締め付けて接合したもので,鉄骨架構とほぼ同等の分離・解体性を有している。また,(1)鉄骨架構に比べ剛性が高く振動性状が良い,(2)鉄骨造やRC造に比べて柱部材の断面を小さくできる,(3)鉄骨造の耐火被覆を省略できることなどの特徴があり,集合住宅の構造躯体として十分な性能を有している。

C6 安全・安心社会の確立に向けた鉄道高架橋の耐震化対策   (株)大林組  喜多 直之
 平成18年は「耐震元年」と位置づけられ,地震の被害を発生・拡大させないために建造物の耐震化など適切な取り組みが必要とされている。鉄道RCラーメン高架橋では,兵庫県南部地震以降,耐震補強が進められてきた。高架下利用の少ない一般的な高架橋の補強は概ね順調に進捗しているが,駅部をはじめとした利用密度の高い高架橋や移設できない設備を有する高架橋では従来工法による補強が困難である場合が多く,課題とされていた。このような高架橋を対象に,高架橋の一部に設置することで全体の補強を行うことができる「圧縮型鋼製ダンパー・ブレース工法」と,狭隘箇所において短時間で人力施工が可能な「鋼製パネル組立補強工法」を開発した。本論文では,両工法の技術的特徴について概説するとともに,適用例を紹介している。

C7 液状化対策を施したパイルド・ラフト基礎の実施
   (株)竹中工務店  山田 毅
 パイルド・ラフト基礎は直接基礎に杭を併用した沈下を制御する基礎形式である。この基礎形式は、建物性能の確保、基礎の合理化と実現するとともに、環境負荷の軽減も実現する。
 ここでは、基礎の性能設計法として有効であるパイルド・ラフト基礎について、概要と特徴を示すとともに、この発展・応用系として採用した、地震時に液状化の発生が懸念される地盤上に立地する事務所ビルに、深層混合処理工法による格子状地盤改良を併用することにより地震時安全性を確保したパイルド・ラフト基礎の実施事例を示した。

C8 リスクマネジメントのための地震危険度解析システム   鹿島建設(株)  右近 八郎
 地震危険度解析とは、地震に関するリスクマネジメント業務の最上流の作業であるハザード評価(地震の規模と頻度の評価)を行うための解析手法である。耐震検討業務の多くは仕様規定型であり、与えられた想定地震(シナリオ地震)を地震入力として設定し、当該構造物の地震時安全性検討が行われているが、想定地震の地震入力としての正当性(発生場所、発生時期、発生頻度などの理論的裏付け)には議論の余地が残されている。一方、昨今注目されているリスクマネジメントや防災計画策定でのハザード評価は性能規定型の業務では、特定の地震だけでなく全ての地震活動域を対象にしてハザード評価を行う必要がある。
 本報では地震危険度解析の概要を報告し、それを実装した地震危険度解析システムの概要を紹介する。さらに、想定地震や既存の被害地震を地震ハザードと比較することで、想定地震や既存の被害地震の客観的なリスクレベルを提示し、防災投資など地震リスクヘッジに対する社会ニーズに合致した地震ハザード評価の必要性を示している。

C9 緊急地震速報を活用した総合地震防災システム   清水建設(株)  高橋 郁夫
 本論では、当社技術研究所で開発した、緊急地震速報を活用した総合地震防災システムの概要を紹介し、実際の地震で本システムが作動した状況について報告を行った。また、建設作業所における緊急地震速報の活用の有効性に関してアンケート調査結果を通して議論した。本システムは、人の避難や緊急動作への誘導を目的とした「即時地震情報伝達・警報システム」、機器・設備の損傷や危険の回避を目的とした「機器・設備制御システム」及び被災後の早期支援や復旧計画策定を目的とした「地震被災度予測システム」より構成される。本システムは、当社の本社、支店、技術研究所、建設作業所に既に導入され、実運用の段階に入っている。2005年に発生した千葉県を震源とした2つの地震では、緊急地震速報を受信してから技術研究所に主要動が到達するまでに十秒程度の余裕があり、その中で警報器や構内放送の各システムが正常に起動したことを確認した。

C10 多摩ニュータウンにおけるコンパクトな地中化(稲城方式)について   (独)都市再生機構  和田 範男
 多摩ニュータウンでは、戸建住宅地における良好な住環境の形成等の一環として電線類の地中化の取り組みを早くから実施している。近年、住環境の向上、景観や防災への意識が高まりから、戸建住宅地においても電線類の地中化の推進が求められ始めているが、この地中化に係る費用を宅地の販売価格に上乗せし回収することは現在の環境においては厳しく、地中化が促進されていない状況にある。
今回、多摩ニュータウン稲城市域の戸建住宅地においてコンパクトな地中化を行うことにより、コスト縮減を図り、宅地価値のアップと整備費用とのバランスを得る、戸建住宅地ならではの新たな技術・工夫について具体的な検討を行ったので、その成果を報告する。

C.まちづくり(ソフト)
C11 花小金井駅北口地区における官公民一体となった総合的なまちづくり   (独)都市再生機構  伊藤 コ子
 花小金井駅北口地区におけるまちづくりは、小平市とUR都市機構が役割分担し、「住宅市街地総合整備事業」とUR都市機構の「直接施行制度」を併用した新たな市街地整備手法により、4年という短期間で駅前広場を含む都市計画道路等の基盤整備を行うと共に、住宅、商業施設の建設等の民間投資を誘発し、駅前のまちづくりを総合的に推進した。
 本論において、短期間で駅前整備を完了することができた本地区のまちづくりの概要を整理するとともに、今後の展開について考察した。

C12 自動販売機を活用した災害対策・防犯対策への取り組み   (株)NTTファシリティーズ  鈴木 幹夫
 昭和30年代半ばから普及が本格的に始まったわが国の自動販売機(以下、「自販機」)は、その利便性が広く社会に受け入れられ、現在では普及台数が約558万台、年間自販金額(自販機を通じて販売・提供される商品・サービスの年間販売額)が約7兆円に達し、国民生活に必要不可欠な社会インフラとなっている。
 その一方で、自販機の普及過程は、省エネ、フロンガス対策、転倒防止、防犯、景観対応等といった様々な課題に対する取り組みの過程でもあった。こうした中、自販機関係各団体では、更なる社会インフラとしての価値向上を目標に、安心・安全なまちづくりのために様々な取り組みを実施している。本論文では、主に清涼飲料自販機のネットワークを活用した災害、防犯対策等への最新の具体的な取り組みについて示す。

C13 まちづくりにおけるユニバーサルデザイン総合評価手法   清水建設(株)  沢田 英一
 ユニバーサルデザインによるまちづくりにおいては,継続的な改善が重要であるが,その際,改善の度合いや進捗状況を客観的に把握するため,これらを数値(指標)で示すことが有効である.本論文では,街区レベルのUDを指標化する手法に関して報告する.まず,評価項目を抽出するため,住環境に関する評価手法やUDまちづくりに関する論文のレビューを行い,UDまちづくりの原則として,(1)公平性,(2)認知性,(3)安全性・安心性,(4)利便性,(5)快適性の5項目を抽出した.次に,各評価項目に対して5段階尺度を設定し,UD評価シートを作成した.この評価シートを用いてケーススタディを行い,提案するUD総合評価手法の有効性を明らかにした.

C14 船橋美し学園――NPOによる土地区画整理後の美しい街並みづくりへの挑戦
    NPOコミュニティ・アソシエーション美しい街住い倶楽部  佐藤 俊一
・ 坪井土地区画整理――65ha、都市機構施行、今年度換地処分、民有地約20ha
・ 15ha、25人の地主とNPO設立。美しい街並みづくりと心通うコミュニティづくりを目指す。
・ 美しい街並みづくりのため、街並み指針の策定、電線の地中化、外構の統一などを進める。
・ 住宅メーカー8社との連携による街並みづくり
・ 商業センター、メディカルモール、こだわりショップの推進
・ 地主の土地活用相談
・ 自治会の設立及び活動支援、クラブ活動支援

C15 少子・高齢社会に向けた安全・安心コミュニティ支援システム   清水建設(株)  村田 明子
 少子・高齢社会の地域の課題として、地域コミュニティの衰退、地域活動を支える人材不足、地域経済の衰退などの多くの課題がある。筆者らは、災害や犯罪への不安感を解消するためには、地域コミュニティ支援を行うことが重要であると考え、住宅における空間状態を判断するモニタリングシステムとSNS(Social Networking Service)を連携させることによって、日常のコミュニティ支援、および緊急時の情報伝達手段として機能する安全安心コミュニティ支援システムを構築した。本稿では、少子・高齢社会における安全安心コミュニティ支援システムの全体枠組みを示し、住宅に適用した場合のシステムの概要を示す。

C16 多世代継続居住可能な空間量可変型集合住宅コンセプトの開発   (株)大林組  久保田 孝幸
 これからのサステナブル社会や少子高齢化社会の都市生活をサポートするため、多世代に渡り継続居住が可能な空間量可変方集合住宅「ダイナミック アセット ハウジング(DAH)」を開発した。
 DAHは住空間の立体可変性と2層あるいは3層メゾネットタイプの高耐久SI住戸形式を基本とし、2世帯同居など多世代に亘るライフステージやライフスタイルの変化に、空間量を容易かつ自由に変化させ対応する。余剰となった空間は独立させ、賃貸住宅やSOHOなどとして有効に資産活用できる。つまり、魅力的でゆとりのある空間を合理的に保有することで、思い通りの住み方を可能とし、個人の資産を守り多世代にわたり定住可能となり、都市のコミュニティを維持し、地球環境への貢献をも考えたハウジングシステムである。
 また、都心における新築と団地再生において、本コンセプトの適用したモデルの検討を行った事例について報告する。

C17 CVM手法を用いた推計便益の信頼性評価について   (株)日建設計シビル  川除 隆広
 社会基盤整備プロジェクトの経済的評価法として費用便益分析が広く用いられている。費用便益分析は、事業の投資対効果を貨幣価値を用いて評価するため、プロジェクトの効果・必要性を国民に理解し易い形で公表し得る事業評価法といえる。しかしながら、現在のところ費用便益分析の実施に際しては、推計された費用や便益の平均値(期待値)等の代表値を用いた評価が主体となっており、経済的妥当性の評価の透明性が十分確保されているとは言い難い。今後は経済的妥当性に関する評価結果が示されることはもちろん、それに加えて十分な説明責任を果たし、評価に際して用いられたデータ、分析方法等のプロセスや評価値の正確な情報を提供していくことが必要であろう。
本報告では、推計された便益の信頼性評価として仮想評価法(CVM)に着目し、推計された便益の信頼性を客観的に評価しうる方法(信頼区間推定法)を提示するとともに、実プロジェクトにおける実証分析結果を通じて推計便益の信頼性評価の活用策を提示する

C18 人口減少期の都市運営コスト把握のための基礎的研究   国土交通省国土技術政策総合研究所  石井 儀光
今後の人口減少に伴い郊外住宅地の空き地・空き家が増加するなど居住密度が低下することに加え、少子高齢化によって年齢構成比が変わることによって様々な都市的サービスの利用効率が低下し、一人あたりの利用コストが増加する事が懸念される。本研究は、今後の人口減少社会において、郊外住宅地の空き地・空き家化による居住密度の低下や年齢構成の変化によって、将来的に都市運営コストがどの程度増加するのか把握するための調査研究の一環として実施しているものである。自治体の歳出額に着目してマクロ的に都市運営コストを把握するとともに、歳出額を用いた分析の課題を明らかにし、基礎的な都市運営コストの項目について検討するものである。

C19 道路景観の新たな取り組み「北九州おもてなしの道づくり」   北九州市  横矢 順二
 本市では、今年3月、待望の新北九州空港が開港するとともに、東九州自動車道の完成など物流や交流の基盤施設が大きく整った。また、小倉都心や門司港レトロなどでは官民一体となった賑わい創出の取り組みも進められる等、今後ますます本市への来訪者が増加するものと期待している。
北九州おもてなしのみちづくり事業は、ビジターズインダストリー(集客産業)の一環で「都市イメージの向上」や「来訪者へのおもてなし」等を目的としている。
市境(幹線道路)における来訪者へのおもてなし(ウエルカム・ゲート)や幹線道路の植樹帯を花や緑で華やかに演出する幹線道路のおもてなし(道路グリーンアップ)など観光客や来訪者に対する歓迎ムードの創出や街の賑わいづくりにもつながる道路の新たな取り組みである。

C20 創造都市大阪・再生の現状と未来   大阪市  高橋 徹
 都市の活力の源泉となるのは「人」であり、都市において豊かな文化や産業を生み出し、質の高い暮らしを実現するためには、大阪に集い、暮らし、活動する「人」がその創造性を発揮することが重要である。そのため、大阪市では、「知」「技術」「文化」の集積する豊かな都市、『創造都市大阪』の実現を目指しているところである。
中でも、今まさに開発が進められている大阪駅北地区では、IT、ユビキタス、ロボットなど、大阪経済を牽引する知的産業の集積を目指すナレッジ・キャピタルを核としたまちづくりに、産官学が一体となって取り組んでおり、優れた人材・企業の集積の起爆剤の役割が期待されている。また、大阪が活性化するためには、大阪駅北地区だけでなく、御堂筋周辺、難波・湊町、中之島、阿倍野、コスモスクエア地区など、それぞれのエリアにおいても個性が輝くまちづくりを進め、大阪独自の知的創造を一層活発化させていくことがこれからの街づくりに不可欠である。
本論文では、創造都市大阪の実現に向けた、規制緩和や緊急整備地域内の民間プロジェクトの誘導方策、内外からの企業・大学誘致の取り組みなどについて紹介するものである。

C21 路面電車を活かしたコンパクトなまちづくり   富山市  室 哲雄
 富山市は、自動車交通への依存度が高く、市街地の低密度化・空洞化等の課題を抱えており、鉄軌道の沿線に居住、商業、業務等の都市の諸機能を集積させることで、公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを目指している。富山港線の路面電車化は、このまちづくりの先駆けとなる取組みであり、利用者の減少の著しいJR富山港線を、北陸新幹線整備や鉄道の高架化を機会に路面電車化することとした。路面電車化に際し、将来、駅南側の市内軌道と接続することとし、「利便性の高い公共交通」や、「あらゆる市民層にやさしい交通機関」とすることとし、運行本数の大幅な増便や全低床車両、ICカードの導入を図った。また、環境に配慮し樹脂固定軌道や芝生軌道を採用した。